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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)2570号 判決

控訴人(原告)

和田藤蔵

ほか三名

被控訴人(被告)

株式会社植捨組

ほか三名

主文

一  原判決中被控訴人株式会社植捨組に関する部分を、次のとおり変更する。

(一)  被控訴人株式会社植捨組は、控訴人和田藤蔵、同和田計江に対し、各金一八二万八五六七円及び内金各八〇万円に対する昭和四四年四月二七日から、内金各一〇二万八五六七円に対する昭和四五年六月二二日から各完済まで年五分の割合による金員の、控訴人和田弘、同和田研三に対し、各金二〇万円及びこれに対する昭和四四年四月二七日から完済まで年五分の割合による金員の各支払をせよ。

(二)  控訴人らの同被控訴人に対するその余の各請求を棄却する。

二  控訴人らのその余の被控訴人ら三名に対する各控訴を棄却する。

三  控訴人と被控訴人株式会社植捨組との間に生じた訴訟費用は、第一・二審を通じてこれを一〇分し、その九を控訴人らの、その一を同被控訴人の各負担とし、控訴人らとその他の被控訴人ら三名との間に生じた控訴費用は、控訴人らの負担とする。

四  この判決は、主文第一項(一)につき仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らは、各自控訴人和田藤蔵、同計江に対し、各金二五六八万五五二三円及び内金六〇〇万円に対する昭和四四年四月二七日から、内金一九六八万五五二三円に対する昭和四五年六月二二日から各完済まで年五分の割合による金員の、各自控訴人和田弘、同研三に対し、各金一〇〇万円及びこれに対する昭和四四年四月二七日から完済まで年五分の割合による金員の各支払をせよ。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。〔証拠関係略〕

理由

一  事故の発生と責任原因

(一)  請求原因1のとおり本件事故が発生したことは、被控訴人らの認めるところであり、事故現場付近の状況・見通し状況・衝突の態様に関する認定は、原判決一五枚目表初行以下一九枚目表九行目までの理由説示と同一(ただし、原判決一五枚目表六行目に「一ないし一一」とあるのを「一ないし一四」と改め、「甲三三号証の一ないし一二」を削り、同八行目及び一八枚目表一〇行目「山本忠士」の次に「(一・二審)」を、一六枚目表二行目「直線」の次に「でわずかに上り坂」を、一七枚目裏八行目「車両が」の前に「道路の左側を東進する」をそれぞれ加え、一九枚目表二行目「かけ降り、」の次に「道路上の安全を確認することもなく」を加え、同三・四行目「、道路の左右の安全を確認しなかつ」を削る。)であるから、これを引用する。

(二)  ところで、〔証拠略〕によれば、事故当時ヤンマーデイーゼル花屋敷寮の寮生が会社に出勤するため花屋敷駅から乗車していた梅田行電車は、おおむね午前七時五八分、八時八分、八時二四分(いずれも花屋敷駅発の時刻)の三本であり、七時五八分の電車の利用者が最も多く、以後漸減して八時八分の利用者は二〇人前後、八時二四分の利用者は一〇人前後という状況にあつたこと、被控訴人槇は、事故の約一年前からほとんど毎日(朝はほぼ同時刻)事故現場の約四〇〇メートル西方にある勤務先を出発し、本件道路を通り万国博覧会場内の仕事場まで自動車を運転して一・二回往復しており、本件裏門が存在することはもちろんこれが平素使用されていないことを知つていたこと、同被控訴人が朝勤務先を出発する時刻は、寮生の出勤する時間帯とおおむね一致するため、寮から駅に向う多くの寮生と本件道路上で行き会うこととなり、本件事故当日も、裏門にさしかかる前に対向する寮生を認めていることが認められ、この認定に反する証拠はない。

右認定事実に、事故の約一週間前から裏門が使用され始め寮生約一〇〇人の大部分がこれを出入していたとの前記引用にかかる認定事実を総合しても、被控訴人槇が、本件事故発生当時において、裏門が使用され始め寮生がこれから出入りしていることを知つていたものと直ちに断定することは困難であるし、他にこれを認めるべき証拠もない。

(三)  前記のとおり、被控訴人槇が裏門の使用されていないことを知つていたとの証拠がないから、この事実は知つていなかつたと推定すべきところ、そうだとすれば、原審認定のとおり前方不注視、徐行その他の点につき同被控訴人に過失があつたということはできないのであつて、この点に関する原審認定(原判決二〇枚目表六行目から二一枚目裏二行目まで、ただし、二〇枚目裏二行目から三行目に「過失はないものといわざるを得ない。」と、二一枚目表一行目から二行目及び同八行目から九行目に「過失はない。」とあるのを、それぞれ「過失があつたものとはいえない。」と訂正する。)を引用する。

したがつて、被控訴人槇には民法第七〇九条の規定に基く責任がないものというべく、また、被控訴人阪上貞雄、同秀雄も、同法第七一五条第二項の規定による責任を負わないこととなる。

(四)  しかし、被控訴人らが自動車損害賠償保障法に定める賠償責任を免れるためには、被控訴人槇において無過失であつたとの立証を必要とするが、前記裏門が事故当時使用されていたことは知らなかつたとの主張に添う〔証拠略〕及び原審における同被控訴人の供述は、前記認定の事実ならびに〔証拠略〕に照らし措信し難いところである。のみならず、寮生が多数居住しており、その出入のために門が造られているのであるから、通常使用されていないからといつて、門のあることを無視することはできず、時によつて人の出入はあるかも知れないと考える必要がある。そして、仮に、被控訴人槇が、裏門から出て来る人のあり得ることを事故当時知り、又は、予期していたとするならば、同被控訴人は、道路前方右手に停車中のダンプカーを避けるため、左手の裏門寄りに進行することを余儀なくされたのであるから、門の出入口付近を注視することはもちろん、警笛を鳴らして自車の進行を知らせるとともに徐行して事故の発生を防止する注意義務があるのに、同被控訴人は、警笛を鳴らさず、徐行もせず、時速約四〇キロメートルのまま漫然と進行した過失があつたということになる。よつて、被控訴人槇が前記事実を知らず、また、予期できなかつたとの立証がない以上、同人は、本件事故の発生につき無過失であるとは言い得ないのであり、加害車が被控訴会社の所有であることは、当事者間に争いがないから、同被控訴人は、自動車損害賠償保障法第三条本文の規定により、右事故による損害を賠償する義務を有する。

二  損害

(一)  武夫の逸失利益 二二四八万九六八四円

〔証拠略〕によれば、武夫は、昭和一八年一〇月二五日生れの健康な男子で、上智大学を卒業後ヤンマーデイーゼル株式会社に勤務したこと(同社に武夫が勤務していたことは、当事者間に争いがない。)が認められるから、同人は、本件事故に遭遇しなければ六三歳まで稼働できたものと推認される。

ところで、〔証拠略〕によれば、前記会社の定年は五五歳で、その後五年間は嘱託として再雇傭するのが通例であり、同社における昭和四四年度の標準者賃金表による二五歳五箇月から五九歳までの標準賃金及び賞与の額は、原判決別表一・二に記載のとおりであり、また同社の退職金規定による定年時の標準退職金の額は五三七万八一二九円であることが認められる。そして、武夫の生活費の控除については控訴人ら主張の方法によるのが合理的であり、また六〇歳から六三歳までの収入は、原判決別表三記載のとおり定年時の収入の半額以下とするのが相当であるから、右給与及び退職金の事故時における現価の合計は、年別単式ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して算出すると、二二四八万九六八四円(給与分は二〇三三万八四三三円、退職金分は二一五万一二五一円)となる。

(二)  葬儀費 三〇万円

〔証拠略〕によれば、葬儀関係費として控訴人藤蔵、同計江がその主張する金員をおおむね支出したことが認められ、また後記三のとおり、被控訴人らは、右以外の葬儀費として一五万余円を同控訴人らに支払つているのであるが、これらのうち三〇万円が、本件事故と相当因果関係に立つ損害というべきである。

(三)  慰藉料 二〇〇万円

武夫と控訴人らとが主張の身分関係にあることは被控訴会社の認めるところであり、〔証拠略〕によれば、武夫は、前途のある好青年で、結婚を目前にしながら本件事故のため一命を失つたのであり、これによる控訴人らの悲嘆は極めて深いものであることが認められるけれども、前認定による事故の態様、とくに武夫の過失が大きいことその他諸般の事情を考慮すると、控訴人らの右精神的苦痛を慰藉すべき額としては、控訴人藤蔵、同計江につき各八〇万円、控訴人弘、同研三につき各二〇万円が相当と認められる。

(四)  弁護士費用 四〇万円

〔証拠略〕によれば、控訴人らは、本件損害賠償の任意支払を受けられなかつたため、本訴の提起・追行を中嶋一麿弁護士に委任し、控訴人藤蔵、同計江は、その手数料として五〇万円を同弁護士に支払い、全認容額の一割を成功報酬として支払う旨を約したことが認められるが、本件訴訟の経過・後記認容額等を考慮すると、被控訴会社が賠償すべき弁護士費用の額は、右控訴人らに対して各二〇万円計四〇万円が相当と認められる。

三  過失相殺及び損害の填補

武夫の相続人である控訴人藤蔵、同計江は、前項(一)の武夫の損害賠償請求権につき各二分の一を承継したこととなるが、武夫の前記過失を斟酌すると、被控訴会社の同控訴人らに対する右賠償額の合計は、その二割に当る四四九万七九三六円(一人当り二二四万八九六八円)とするのが相当であり、また、前項(二)の葬儀費についても過失相殺をすると、その二割に当る六万円が賠償額として相当である。

ところで、控訴人らが本件事故による自動車損害賠償責任保険金として二八四万〇八〇一円を受領したことは、当事者間に争いがないから、控訴人らの主張に従いその半額である一四二万〇四〇一円宛を控訴人藤蔵、同計江の損害に対する弁済に充当する。また、被控訴人らが同控訴人らに対し葬儀費として一五万九一九九円を支払つたことは、同控訴人らが明らかに争わないのでこれを自白したものとみなすが(なお、被控訴会社は、その他に治療費及び看護料を同控訴人らに支払つた旨主張するが、これらは本訴請求の損害費目となつていないのであるから、右主張は抗弁として考慮する要をみない。)、同事実によると、前記過失相殺後の葬儀費六万円は全額弁済を受けたこととなる。

四  結論

以上の次第で、控訴人らの本訴請求中被控訴会社に対し、各一八二万八五六七円(控訴人弘、同研三は各二〇万円)及びこれに対する事故発生の翌日である昭和四四年四月二七日(控訴人藤蔵、同計江は内金一〇二万八五六七円につき訴状送達の翌日である昭和四五年六月二二日)から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるので、これを認容するが、被控訴会社に対するその余の請求及びその余の被控訴人ら三名に対する請求は、いずれも失当として棄却すべきものである。

よつて、控訴人らの被控訴会社に対する請求については、これと趣旨を異にする原判決を右の限度で変更し、その他の被控訴人ら三名に対する控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であるから、右三名に対する本件各控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担及び仮執行の宣言につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九六条、第九二条本文、第一九六条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺一雄 田畑常彦 宍戸清七)

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